その日、私はいつもと同じ一日がはじまったと思っていました。
6時半に夫がビッケの散歩に行って、オシッコ1回とウンチ2回。
7時15分にドライフード50グラムとササミ、そして投薬。
それから、私が仕事に出かける直前の9時に、ビッケのトイレをさせる為に短い散歩に出て、オシッコ1回。
家に戻ってきてビッケを部屋に入れて
いつものように
「ビッケ、お母さんお仕事に行ってくるね。」
いつもの9時20分の朝の光景。
悲しそうなお顔のビッケ。
「ごめんね。お留守番お願いね」と、いつものように
大好きなクッキーをひとつあげました。
このクッキーが、ビッケが食べた最後の食べ物になってしまいました。
14時30分頃、仕事から帰ってくると、ビッケが窓から外を見ていませんでした。
ビッケは、いつでもどんな時でも私が帰ってくると、車のドアをバタンと閉める音に気付いて、リビングの窓からこちらを見て、私を待っていてくれていました。
※イメージです
玄関の鍵をガチャガチャ開けて、玄関のドアを開けました。
「ビッケー!ただいまー!」
リビングのドアは開けっ放しなのに、それでも玄関までビッケは出てきません。
私は、恐る恐るリビングの入口に立って、ビッケの姿をさがしました。
自分のベッドに寝ているビッケが見えました。
ベッドといっても、厚めの毛布を4つに折りたたんだ物で、でもビッケはそれが自分の「ベッド」だと知っていて、いつもそこに寝ていました。
ビッケは
どんな小さな物音にも反応して起きる子です。
玄関を開けた音で起きないはずがないんです。
私が「ビッケ」と呼んでいるのに、寝ているはずがないんです。
まさか、そんな、まさか・・・
私はリビングの入口から一歩も動けずに、声をかけました。
「ビッケ・・・ビッケ・・・ビッケ!ビッケ!ビッケ!!」
私の声はどんどん大きくなりました。
そのままの場所に立ったままで、私は壁を叩きました。
最初はノックをするように音を出していましたが、そのうちグーでドンドンと叩きながら「ビッケ!ビッケ!」と叫んでいました。
『生きていれば物音で起きるはずだ。』
そう信じていた私の気持ちが、しばらくそんな行動をとっていました。
だめだ、動かない。
私はビッケの側に行き、顔を見ました。
いつもと同じ、ヨコになった格好で、毛布の上に寝ていました。
目は半開きで、口が少し開いていて舌が出ていました。
毛布に、オシッコを漏らした跡がありました。
パニックになりました。
「ビッケーーーっ!!ビッケーーーっ!!ビッケーーーっ!!」
「起きて!!いやだ!!起きて!!いやだよーーー!!ビッケーーーーー」
狂ったように泣き叫びました。
大きな声を出せば、ビッケが戻ってくるんじゃないかと思いました。
よく見ると、頭が少し毛布から落ちていたので、上げてやると、
持ち上げたビッケの頭は力が抜けてダラーンとしていました。
この時、初めてビッケの体に触り、そして初めて「やっぱり死んでいる」と確信してしまいました。
でも、でも
その時のビッケは、ビッケの体は温かかったんです。
まだ柔らかかったんです。
信じたくなかった。
夢かと思った。
「ビッケ!!なんで?!ビッケ!!やだよ、やだよ・・・」
ビッケの体を抱きしめながら
泣いて 泣いて 泣いて
「うそだ!うそだ!うそでしょう・・・?ビッケ!おきて!!」
叫び続けたけれど、ビッケはやっぱり動きませんでした。
夫に電話をしました。
「ビッケ!ビッケ!ビッケ!」
電話を発信しながらもビッケの名前を叫んでいたので、電話に出た夫が
「どうした!?」と聞いてきました。
「ビッケが!死んじゃった!」
泣きながら答えました。
そのあとは、もう何を言ったのか何を言われたのか覚えていません。
私は、ビッケに謝り続けていました。
今日、逝ってしまうなら、仕事を休んで一緒に居てあげればよかった。
もっともっと一緒に遊べばよかった。
大好きな果物をもっと食べさせてあげればよかった。
もっと抱きしめればよかった。
たったひとりぽっちで逝かせてしまった・・・。
後悔で胸が潰れそうでした。
でもそれよりも
さみしい。ただただ、さみしいのです。
いつも一緒にいたビッケが、
今はもう、
目をあけることも、「ワン」と吠えることも、噛み付いてくることも、
おなかを出して甘えてくることも、窓から私を出迎えてくれることも、
膝に乗ってくることも、可愛い笑顔を見せてくれることも、
一緒に散歩に行くことも、一緒に布団で寝ることも・・・
ぜんぶ無いんです。
当たり前だった毎日が、もう無いのです。
後悔と、寂しさと、信じられない気持ちで
私は、なかなか現実を受け入れることができずに
ビッケを撫でながら泣き続けていたのです。
しばらくして、夫が帰ってきてくれました。
部屋に入ってくると
「なんで病院に連れて行かないんだ!蘇生できるかもしれないだろ!」
と、夫に叱られました。
夫も、まだ信じたくなかったんだと思います。
「だって、もう死んでるよ・・・死んでるよ・・・」と泣きじゃくる私。
ビッケを見て、そして夫は
「ビッケ、そうか・・・死んじゃったか・・・
しかたないな。がんばったんだ。そうか・・しょうがないな・・・」
ビッケを撫でてあげていました。
それから夫は、病院に電話をして、どうすればいいか聞いていました。
病院からの返事が「ビッケちゃんを綺麗にしますので、連れてきて下さい。準備があるので20分後位に。」ということでした。
ビッケを、そのまま毛布に包んで、車に乗せました。
運転席に夫、助手席に私、後部座席にビッケ。
いつもの動物病院への道のり。
何回も何回も、ビッケを乗せて通ったこの道のり。同じ景色。
いつもと違うのは、ビッケは死んでしまったという事だけ。
涙があとからあとから溢れてきました。
病院に着くと、看護師のYさんがすぐに車に来てくれて、後部座席に毛布に包まれているビッケを迎えに来てくれました。
Yさんは、毛布をめくりビッケの顔を確認し、目を撫でてくれました。
もう一度毛布に包んで、抱っこして、「少しお待ちくださいね。」とビッケを病院の中に連れて行ってくれました。
外で待っている私たちのもとに、院長先生が来てくれました。
私が、留守番のときに一人で逝ってしまった事を話すと
「お母さんに心配かけたくなかったのかも知れませんね・・」と言って下さいました。
その時の言葉が、私の心を少し軽くしてくれました。
死因については「発作が起こったんだと思います。」という事でした。
しばらくして、看護師さんに呼ばれて、診察室に入りました。
そこには、大きなダンボールの箱に入ったビッケがいました。
体を綺麗にしてもらい、体の穴に綿を詰めてもらい、綺麗な白いシーツに包まれて、
綺麗なお花と、お線香と、オヤツがお供えしてありました。
診察室には、その時にいらっしゃった方全員(先生3人と看護師さん2人)がみなさん揃ってビッケにお別れをして下さいました。
院長先生は「ビッケちゃんはね、この病院のアイドルなんだよね。」って言って下さいました。
それから、おふたりのお家の子でビッケちゃんは幸せだったと、言ってくださいました。
私は、病院のスタッフの皆さんに
「ビッケは、こちらで診て頂けて、たくさん可愛がってもらって、本当に幸せだったと思います。」と言いました。
そして、私たちが車に乗って帰る時も全員で外に出て、深くお辞儀をして、見送って下さいました。
先生や、看護師さんも、目に涙をためていました。
私はそれを見て、本当に嬉しい気持ちになりました。
この病院でお世話になって本当に良かった。
S院長先生をはじめ、O先生、T先生、
看護師のYさん、Hさん、Mさん、
研修生のO君、Yさん
本当に、本当にありがとうございました。
家に帰ってしばらくすると、お友達のJ子ちゃんと、その子供のK君とNちゃんがひまわりの花束を持って来てくれました。
J子ちゃんは、ビッケにとって大好きな人でした。
本当にビッケは嬉しかったと思います。
K君とNちゃんも、ビッケにとっては幼なじみのような特別な存在でした。
6年生と3年生というお年頃は、きっと人前で泣くのって照れくさいのでしょう。
K君はビッケの前で「う・・」と涙をこらえ、Nちゃんはカーテンの側で泣いていたこと、私はずっと忘れません。
ふたりとも、ビッケの為にありがとうね。
J子ちゃんからのお花
Nちゃんがビッケの為に持ってきてくれたプーさんのぬいぐるみ
J子ちゃんたちと入れ違いで、私の母が来てくれました。
母は、とてもとてもビッケを可愛がっていました。
ビッケが大好きでした。
母の悲しみを思うと、私もビッケの死を伝えるのが辛かった・・・。
母はビッケに最後に会ったのが2日前でした。
私とビッケが散歩中に外で会って、雨が降ってきてしまったので、あわただしく別れて・・。
それが最後でした。
あのとき、雨さえ降らなければ、もっと遊んでいられたのに。
そんな事さえ思ってしまいます。
お母さん、ビッケを可愛がってくれて本当にありがとう。
ビッケの為に、たくさんたくさん悲しい思いをさせてしまってごめんなさい。
母からのお花
それから、私の姉が仕事帰りに来てくれました。
ビッケの側に寄り添い、ずっと泣いていました。
姉には、家に帰ってくるまで、メール等でビッケの死を知らせませんでした。
知らせることを、私がしなかったのです。
姉は、最寄駅から原付で帰ってきます。
ビッケの死を知ることによって、事故でも起こしかねない。
それほど、ビッケの病気を心配し、ビッケとの別れに毎日おびえている姉だったのです。
お姉ちゃん、ビッケを大切に思ってくれてありがとう。
姉からのお花
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ビッケ、あなたが亡くなった2009年6月18日のこと、
ずっと覚えていたくて、お母さんは日記に書きました。
今日は11月18日。
もう5ヶ月も経っちゃったけど、一生懸命思い出しながら書きました。
書きながら、久しぶりにたくさん涙が出ました。
可愛いビッケに、会いたいです。
いつかまた会おうね、約束だよ。
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ビッケがお空に昇った6月21日の事は、また次回に書きますね。
長い記事を最後まで読んで下さった方、ありがとうございました。